KINMAQ訴訟判決から読み解く|理学療法士が副業整体を始める前に知っておくべき法的リスク

理学療法士の悩み

「副業として整体を始めたい」

「理学療法士としての技術を、もっと多くの人のために使いたい」

そう考えたとき、多くのPTが最初に感じる不安が「これって法的に大丈夫なのか?」という疑問ではないでしょうか。

2025年3月、この不安に一つの答えを示す判決が出ました。

理学療法士が運営するKINMAQ整体院山形南院に対し、鍼灸マッサージ師側が「違法な広告表示だ」として訴えた裁判です。

この判決は、副業整体を営むPTにとって決して他人事ではありません。

結論から言えば、理学療法士免許をもった施術師が行う整体行為そのものは、違法ではありませんでした。

問題になったのは「広告の言葉遣い」です。

私自身、理学療法士として14年間病院勤務を続けながら、1年半、副業整体を紹介制で運営してきました。

この記事では、KINMAQ訴訟の判決内容をもとに、副業整体を始める前に知っておくべき法的リスクと具体的な注意点を解説します。

「楽して稼ぐ」でも「リスクゼロ」でもない、現実に即した情報をお届けします。

KINMAQ訴訟とは何だったのか?|3分でわかる事件の概要

KINMAQ整体院は、施術者が全員理学療法士であることを売りにした整体院チェーンです。

2023年、山形市で鍼灸マッサージ治療院を営む院長が、KINMAQ整体院山形南院(フランチャイズ加盟店)を山形地方裁判所に提訴しました。

訴えの内容は大きく2点です。

① 広告表示が消費者を誤認させる

「理学療法士が医師の指示なく、合法的に医業類似行為を行っている」と消費者に誤解させる広告表示が不正競争防止法違反にあたると主張しました。

② SNSからの誘導も問題

問題のある広告を掲載したWebサイトへ、SNS投稿からリンクで誘導していた行為も差止請求の対象となりました。

訴訟はPT業界内でも大きな話題となり、「整体は違法なのか」という議論に発展しました。

2025年3月25日、山形地裁が判決を下し、結果は「部分的に違法あり」という内容でした。

判決で「違法」とされたこと・されなかったこと【一覧まとめ】

判決の内容を正確に理解することが、副業整体を安全に続けるための第一歩です。

まず結果を整理します。

✅ 違法と認められなかったこと
  • 理学療法士による整体の実施・運営そのもの
  • Webサイトに「理学療法士」と資格を表記すること
  • SNSで自ら整体院の施術に関する投稿を行うこと
  • 「理学療法士有資格者による筋膜施術整体院」「お身体の悩み不調を改善に促す」といった店舗外壁の広告
❌ 違法と認められたこと
  • Webサイトにおける疾病や症状の改善・解消・緩和をうたう記載(品質誤認表示)
  • 品質誤認表示がなされていたWebサイトへSNSを使って誘導したこと

つまり、「整体をやること」は問題なし、「治る・改善すると書いたWebに誘導すること」がアウトでした。

この違いを正確に理解することが非常に重要です。

理学療法士が整体院を開業することは違法なのか?

結論から言います。違法ではありません。

今回の判決でも、理学療法士が整体を行い、院を運営すること自体は争点にすら挙げられませんでした。

ただし、ここで一つ重要な前提を確認しておく必要があります。

理学療法士法では、理学療法士の業務は「医師の指示のもと」に限定されています。

つまり、整体院での施術は「理学療法士としての業務」ではなく、「整体師(無資格で開業できる民間施術)」として行うものです。

この点を混同すると、後述する広告表現の問題につながります。

「PTだから治療として整体ができる」のではなく、「PTでも一般人でも整体師として開業はできる」が正確な理解です。

理学療法士が整体師を行うこと自体に法的な壁はありません。

問題は、何を発信し、何を宣伝するか。

その言葉の使い方にあります。

最も危険な地雷は「広告の言葉」|絶対に使ってはいけない表現一覧

今回の判決の核心は、「特定の疾病または症状の改善・解消・緩和を目的とする施術の広告は、医業類似行為の禁止規定に抵触する」という点です。

整体業を始めようとするPTが、うっかり使ってしまいがちなNG表現を一覧にしました。

言葉一つで法的リスクが生じます。

これが今回の判決が突きつけた現実です。

Webサイト、チラシ、名刺、口頭説明に至るまで、この基準を意識した言葉選びが必要です。

「理学療法士です」と名乗ることはOK?資格表記の正しい使い方

結論:「理学療法士です」と名乗ること自体はOKです。

今回の判決でも、Webサイトに「理学療法士」と資格を表記することは違法と認められませんでした。

副業整体の場面でも、自分がPTであることを伝えることに法的な問題はありません。

ただし、「単体ではOKでも、組み合わせでNGになる」という落とし穴があります。

「理学療法士」という言葉が”症状が治る・医療的に効果がある”という印象を与える文脈に置かれた瞬間にアウトになります。

資格は自分の専門性の背景として伝えることはできますが、「だから治る」「だから安全」という文脈で使うと途端にリスクが生じます。

名乗り方ではなく、名乗った後に続く言葉が問われます。

ここが最も見落としやすいポイントです。

SNS・ブログ・紹介制、集客方法別のリスク比較

副業整体の集客方法は様々ですが、方法によって法的リスクの高さが異なります。

ポイント:SNS単体とリンク誘導は別物

今回の判決で注目すべきは、SNSの投稿そのものは違法と認められなかった点です。

しかしそのSNS投稿から、症状改善をうたったWebサイトへリンクを貼った行為は違法とされました。

つまり「SNS投稿はOK、でもリンク先も含めてセットで判断される」ということです。

Webサイトの文言を見直すだけでなく、そこへ誘導するあらゆる経路の表現も一貫して安全な言葉に統一する必要があります。

私自身が紹介制を採用しているのは、集客面だけでなくこうしたリスク管理の観点からも理にかなっていると、今回の判決を読んで改めて感じました。

副業整体を安全に続けるための、言葉の言い換え実例集

最後に、副業整体のあらゆる場面で使える言い換え表現をまとめます。

Webサイト・SNS・名刺・口頭説明のすべてで意識してください。

言葉は変えても、伝える内容の本質は変わりません。

「治す」から「整える」へ、「効果」から「体験」へ。

この視点の転換が、法的リスクを回避しながら誠実に発信を続けるための鍵です。

まとめ

KINMAQ訴訟の判決が教えてくれたのは、「整体そのものがアウト」ではなく、「症状改善・治療・根本改善といった言葉を広告に使うことがアウト」だということです。

副業整体を始めることへの不安は、よく理解できます。

私自身、家族がいる中で何度も迷いました。

それでも、リスクの正体を正しく知ることで、漠然とした不安は「対処できる具体的な課題」に変わります

整体行為は違法ではない。

ただし、言葉の使い方には細心の注意が必要。

これが現時点での現実解です。

「楽して稼ぐ」でも「リスクゼロ」でもありません。

ただ、正しく知って、正しく動けば、副業整体はPTにとって十分に現実的な選択肢です。

まずは今使っているWebサイトやSNSの言葉を、この記事を参考に一度見直してみてください。

この記事が、一歩を踏み出す前の「地に足のついた判断」の助けになれば幸いです。

▶関連記事:【理学療法士の副業は禁止?】就業規則の確認方法と懲戒処分を回避する対策


【免責事項】

本記事はKINMAQ訴訟の判決をもとにした情報提供を目的としており、法律的な助言ではありません。個別の表現や状況についての適法性は、必要に応じて専門家にご確認ください。

【参考資料】

工藤はりきゅうマッサージ治療院ブログ(原告による訴訟経過の記録)

裁判所公式データベース(判決文原文)  /事件番号:令和5年(ワ)第61号・山形地裁

※本記事は上記をもとに構成していますが、法律的な助言ではありません。個別の判断は専門家にご相談ください。