そう考えたとき、多くの人が気になるのが、「理学療法士が整体をしても法律的に大丈夫なの?」という疑問ではないでしょうか。
実際、理学療法士が運営する「KINMAQ整体院山形南院」をめぐって、整体の施術や広告表示が問題となった裁判がありました。
この裁判は、2025年3月に山形地方裁判所で判決が出され、その後、2025年9月に仙台高等裁判所で控訴審の判決が出されました。
さらに2026年2月12日、最高裁判所が上告を棄却し、上告受理申立ても受理しない決定をしたことで、仙台高裁の判決が確定しています。
では、この裁判によって何が決まり、理学療法士が副業整体をするときに何を注意すればいいのでしょうか。
結論から言えば、今回の裁判は、「理学療法士が整体をすることは全部違法」と判断した裁判ではありません。
一方で、「理学療法士なら、整体で医学的な効果を自由に宣伝していい」という裁判でもありません。
この記事では、KINMAQ訴訟をできるだけ簡単に整理しながら、理学療法士が副業整体を始める前に知っておきたい法律上の注意点を解説します。
- KINMAQ訴訟とは何だったのか?|3分でわかる事件の概要
- KINMAQ訴訟の判決を時系列で整理|山形地裁・仙台高裁・最高裁
- 仙台高裁は「整体そのもの」を違法と判断したのか?
- そもそも「医業類似行為」とは?
- 理学療法士が整体を副業にすることは違法なのか?
- 仙台高裁が問題にした「整体と医学の両方から根本改善」とは?
- 「理学療法士」と名乗ること自体が問題なのか?
- 理学療法士が副業整体で避けたい広告表現
- 「治す」ではなく「整える」なら絶対に大丈夫?
- SNSに投稿するだけなら問題ない?
- KINMAQ訴訟から学ぶ「広告チェック」の4つのポイント
- 副業整体をするなら「法律以外」のリスクもある
- KINMAQ訴訟から理学療法士が学ぶべき3つのこと
- まとめ|KINMAQ訴訟から分かる副業整体の法的リスク
KINMAQ訴訟とは何だったのか?|3分でわかる事件の概要
まずは、難しい法律の話を抜きにして、この裁判で何が問題になったのかを整理しましょう。
KINMAQ整体院山形南院は、理学療法士による整体を提供していた整体院です。
この整体院の広告表示などについて、鍼灸マッサージ治療院を営む側が問題を指摘し、裁判になりました。
原告側が主に問題にしたのは、「理学療法士が医師の指示を受けずに整体を行っていることを、消費者に誤解させるような広告表示になっているのではないか」という点です。
簡単にすると、争われたポイントは次のとおりです。

ここで大切なのは、「理学療法士が行う整体の施術そのものが違法とはならなかったこと」です。
裁判では、施術内容とは別に、どのような広告をしていたかが大きな問題になりました。
そして、2025年9月の仙台高裁では、整体の施術について重要な判断が示されました。
さらに2026年2月、最高裁で上告が棄却され、上告受理申立ても受理されなかったため、仙台高裁の判決が確定しました。
つまり現在は、「2025年9月の仙台高裁で、裁判が確定した」という状態です。
KINMAQ訴訟の判決を時系列で整理|山形地裁・仙台高裁・最高裁
この裁判は、3つの段階に分けて考えると分かりやすくなります。
2025年3月25日|山形地方裁判所
最初に判決を出したのが山形地方裁判所です。
一審では、KINMAQ整体院の広告の一部について、消費者に誤解を与える表示だとして、差止めなどを認めました。
特に問題となったのが、疾病や症状の改善・解消・緩和などをうたう広告です。
一審判決では、医業類似行為についても踏み込んだ判断が示されました。
この判決を受けて、「整体そのものが違法なのでは?」という受け止め方が広がりました。
しかし、ここで話は終わりません。
被告側が控訴し、仙台高等裁判所で改めて判断されることになりました。
2025年9月24日|仙台高等裁判所
控訴審を担当したのが仙台高等裁判所です。
ここで、医業類似行為について一審とは異なる重要な判断が示されました。
仙台高裁は、医業類似行為がすべて禁止されるという考え方ではなく、最高裁の過去の判例を踏まえ、「人の健康に害を及ぼすおそれがある業務行為」が禁止の対象となる、という考え方を示しました。
そして今回のKINMAQ整体院の施術については、健康に害を及ぼすおそれがある施術だと認めるための証拠がないとして、あはき法12条が禁止する医業類似行為に該当するとまでは認めませんでした。
ここは非常に重要です。
ただし、仙台高裁が広告について何も問題がないと判断したわけではありません。
「整体と医学の両方から根本改善」という広告については、消費者に医学的な効果があるように誤解させる表示として問題があると判断しました。
つまり、施術についての判断と、広告についての判断は別です。
2026年2月12日|最高裁判所
その後、原告側は最高裁判所に上告しました。
そして2026年2月12日、最高裁は、
上告を棄却
上告受理申立てを受理しない
という決定をしました。
これによって、仙台高裁の判決が確定しました。
ここで注意してください。
最高裁が「理学療法士の整体は合法」と新しく判断したわけではありません。
最高裁によって仙台高裁の判決を覆すことができず、仙台高裁の判断が確定した、ということです。
現在の裁判結果をまとめると、次のようになります。

仙台高裁は「整体そのもの」を違法と判断したのか?
【結論】
今回のKINMAQ整体院で行われていた施術は、法律で禁止される「医業類似行為」には当たらないと判断されました。
仙台高裁は、医業類似行為に当たるかどうかを判断するとき、その施術によって人の健康に害を及ぼすおそれがあるかが重要だとしました。
そして、今回のKINMAQ整体院の施術については、健康に害を及ぼすおそれがあると認めるだけの証拠がないと判断しました。
そのため、あはき法12条で禁止される医業類似行為には当たらないとされたのです。
ただし、これはすべての整体が問題ないと判断されたわけではありません。
今回の裁判で実際に行われていた施術についての判断です。
そもそも「医業類似行為」とは?
「医業類似行為」とは、簡単にいうと、医療に似た行為を、医師ではない人が仕事として行うことに関係する法律上のルールです。
あはき法12条では、免許を持たない人が医業類似行為を仕事として行うことを禁止しています。
ただし、「医療に似ているから、すべて禁止」というわけではありません。
過去の最高裁判例では、医業類似行為について、人の健康に害を及ぼすおそれがあるかどうかが重要だとされています。
つまり、整体などの施術が医業類似行為に当たるかを考えるときは、実際にどのような施術を行い、それによって健康に害を及ぼすおそれがあるのかを見る必要があります。
今回のKINMAQ訴訟でも、この考え方をもとに施術内容が判断されました。
理学療法士が整体を副業にすることは違法なのか?
【結論】
理学療法士という資格を持っていることだけを理由に、整体業の開業が禁止されているわけではありません。
ただし、ここで大切なのが、「理学療法士業をすること」と「整体業をすること」は同じではないということです。
理学療法士の業務は、理学療法士及び作業療法士法によって定められています。
理学療法は、医師の指示の下で行うものです。
一方、整体師という国家資格はありません。
そのため、副業として整体を行う場合、「理学療法士の資格があるから、医師の指示なしで理学療法をしている」という説明にしてはいけません。
ここを混同しないことが重要です。

副業整体を考えている方は、整体を始めることだけでなく、どのようなサービスとして提供するのかまで整理しておきましょう。
詳しくは、「理学療法士は整体を副業にできる?|資格・施術内容・法律・注意点を徹底解説」でも詳しく解説しています。
仙台高裁が問題にした「整体と医学の両方から根本改善」とは?
今回の裁判で特に注目したいのが、広告の表現です。
問題となったのが、「整体と医学の両方から根本改善」という表示です。
仙台高裁は、この表示について、消費者が、
などと誤解する可能性があると判断しました。
つまり、単に「整体」という言葉が問題になったのではありません。
整体と医学を組み合わせて、医学的な効果があるように見せたことが問題になったのです。
これは、理学療法士が副業整体をするときにも非常に参考になります。
理学療法士は国家資格を持っています。
そのため、「理学療法士」という資格名と、「医学」「治療」「根本改善」などの言葉を一緒に使うと、一般の人から見て、「医療機関と同じような治療を受けられるのかな?」と受け取られる可能性があります。
広告を作るときは、この点に注意しましょう。
「理学療法士」と名乗ること自体が問題なのか?
【結論】
「理学療法士」という資格を持っている人が、自分を理学療法士と表示すること自体が問題になったわけではありません。
今回の仙台高裁も、理学療法士という国家資格を有する事実の表示そのものを、事実と違う表示とはしていません。
つまり、「私は理学療法士です」と事実を伝えることと、「私は理学療法士なので、この整体で症状を治療できます」と宣伝することは別です。
ここを分けて考えてください。
例えば
これは、資格について事実を説明している文章です。
一方、
このような表現は、整体サービスを医療と結びつける内容になるため、注意が必要です。
理学療法士が副業整体で避けたい広告表現
ここは、できるだけ分かりやすく整理しましょう。
特に注意したいのは、「治す」「診断する」「治療する」など、整体を医療と同じように見せる表現です。
例えば、次のような表現には注意が必要です。

ここで重要なのは、「この言葉を使ったら必ず犯罪になる」という単純な話ではないということです。
問題になるのは、言葉だけではありません。
施術内容、広告全体、資格の見せ方、サービスの説明などを合わせて判断する必要があります。
だからこそ、「理学療法士だから大丈夫」とは考えないことが大切です。
「治す」ではなく「整える」なら絶対に大丈夫?
ここも誤解しないようにしましょう。
「治す」という言葉を「整える」に変えれば、何でも問題なくなるわけではありません。
例えば、「腰痛を治します→腰痛を整えます」と、言葉だけを変えたとしても、実際のサービス内容や説明全体から、病気や症状を治すサービスのように見える場合は注意が必要です。
大切なのは、言葉を置き換えることではなく、実際にどのようなサービスを提供しているのかを、分かりやすく正しく伝えることです。
例えば、
といったように、実際に行っていることをそのまま説明すると、サービスの内容も伝わりやすくなります。
つまり、「治す→整える」という言葉の置き換えではなく、広告全体でどのようなサービスなのかを正しく伝えることが大切です。
副業整体の広告表現について、具体的なNG例・言い換え例はこちらの記事で詳しく解説しています。
▶関連記事:理学療法士の整体業で使ってはいけない危険な表現とは?|法律上の注意点と安全なサービスの線引きを解説
SNSに投稿するだけなら問題ない?
【結論】
SNSだから安全、ということではありません。
今回の裁判では、SNSそのものと、SNSから問題となったWebページへ誘導する行為が分けて判断されています。
そのため、「SNSなら何を書いても大丈夫」とは考えない方がいいでしょう。
例えば、「今日も整体の施術をしました」という事実の報告と、「この施術で腰痛が治りました。詳しくはこちら」という投稿では意味が違います。
さらに、SNS → Webサイト → 予約ページという流れで集客している場合は、それぞれのページの文章を確認する必要があります。
集客経路を一度チェックしてみましょう
副業整体では、「名刺やLINEの内容を直したから大丈夫」ではありません。
お客様がサービスを知るまでのすべての文章を確認しましょう。
KINMAQ訴訟から学ぶ「広告チェック」の4つのポイント
副業整体を始めるなら、広告を公開する前に、次の4つを確認してみてください。
① 病気や症状を「治す」と宣伝していないか?
まず確認したいのが、病気や症状を治療するような広告になっていないかです。
例えば、
といった表現です。
自分がどのような施術を行っているのかを説明することと、病気や症状を治すことを宣伝することは別の話です。
「腰痛の方におすすめ」「身体を整える」といった表現でも、広告全体から治療を受けられるように見える場合は注意が必要です。
言葉を一つだけ変えるのではなく、広告全体でどのようなサービスに見えるのかを確認しましょう。
② 整体と医学を直接結びつけていないか?
次に注意したいのが、整体と医学を直接結びつける表現です。
例えば、
といった表現です。
今回のKINMAQ訴訟でも、「整体と医学の両方から根本改善」という広告表示が問題となりました。
整体の知識や技術を説明することと、「医学的な治療が受けられる」と感じさせることは同じではありません。
そのため、「医学」「医療」「治療」などの言葉を使う場合は、広告全体を見て、利用者にどのような印象を与えるのかを確認することが大切です。
③ 「理学療法士だから治せる」という説明になっていないか?
理学療法士の資格や病院での経験は、自分の経歴を伝えるうえで大切な情報です。
しかし、「理学療法士だから整体でも病気や症状を治せる」という説明になってしまうと、話は別です。
理学療法士が行う「理学療法」と、資格とは別に行う「整体業」は、分けて考える必要があります。
例えば、「理学療法士として〇年間、病院で勤務してきました」という経歴紹介と、「理学療法士だから腰痛を治せます」という広告では、意味が大きく異なります。
資格や経験を事実として紹介することと、その資格を理由に医療的な効果をうたうことを混同しないようにしましょう。
④ SNSからWebサイトまで、広告全体を確認しているか?
最後に確認したいのが、SNSだけでなく、その先のWebサイトまで確認することです。
例えば、SNS:「腰痛に悩んでいる方はこちら」→ Webサイト:「腰痛を根本から治します」という構成になっていた場合、SNSだけを確認しても十分ではありません。
SNSは広告の「入口」であり、リンク先のWebサイトも含めて、利用者にどのようなサービスを伝えているのかを見る必要があります。
そのため、SNS、ホームページ、ブログ、LINE、予約ページなど、すべての広告を一つのまとまりとして確認することが大切です。
「入口は問題なさそうだから大丈夫」と考えず、リンク先まで実際に確認する習慣をつけましょう。
副業整体をするなら「法律以外」のリスクもある
KINMAQ訴訟は法律や広告についての裁判ですが、副業整体を始めるときに考えるべきリスクは法律だけではありません。
例えば、
などがあります。
つまり、「法律に問題がなければ副業整体は安全」というわけではありません。
副業整体を始める前に考えておきたいリスクを、法律・職場・税金・事故・集客に分けて解説しています。
▶関連記事:理学療法士が副業整体を始めるリスクとは?法律・職場・税金・事故・集客を解説もあわせて確認してください。
KINMAQ訴訟から理学療法士が学ぶべき3つのこと
最後に、この裁判から副業整体を始める理学療法士が覚えておきたいことを3つにまとめます。
①「理学療法士だから何をしてもいい」ではない
理学療法士は国家資格ですが、資格を持っているからといって、整体サービスを医療行為として自由に提供できるわけではありません。
病院などで行う理学療法と、副業として行う整体は、分けて考える必要があります。
「理学療法士だから大丈夫」と考えるのではなく、整体としてどのような施術を行うのか、どのように説明するのかを確認することが大切です。
② 施術だけでなく広告も確認する
副業整体では、施術の内容だけでなく、広告に何を書いているかにも注意が必要です。
ホームページ、ブログ、SNS、LINE、チラシなど、集客に使う文章はすべて確認しましょう。
「施術に問題がなければ広告も大丈夫」とは限りません。
どのようなサービスなのかを正しく伝え、医療行為を受けられるように誤解させる表現を避けることが重要です。
③「医学」「治療」「根本改善」という言葉には注意する
理学療法士は医療の知識や国家資格を持っているため、その資格を広告で紹介すること自体はできます。
ただし、「理学療法士だから治療できる」「医学的に治す」といった表現には注意が必要です。
「理学療法士として病院で勤務してきた」という事実を伝えることと、「理学療法士だから整体でも治療できる」と宣伝することは別の話です。
まとめ|KINMAQ訴訟から分かる副業整体の法的リスク
KINMAQ訴訟は、2025年3月に山形地裁、2025年9月に仙台高裁で判決が出され、2026年2月12日に最高裁が上告を棄却し、上告受理申立ても受理しない決定をしたことで、仙台高裁の判決が確定しました。
今回の裁判について、まず覚えておきたい結論は次の2つです。
【結論①】
今回のKINMAQ整体院の施術は、あはき法12条が禁止する医業類似行為とは認められませんでした。
仙台高裁は、今回の施術について、人の健康に害を及ぼすおそれがあると認める証拠がないと判断しました。
【結論②】
一方で、広告表現については問題があると判断されました。
特に「整体と医学の両方から根本改善」という表示について、消費者に医学的な効果があるように誤解させる表示だと判断されています。
したがって、理学療法士が副業整体を行うときは、「整体をすること」と「整体をどう宣伝するか」を分けて考える。
これが重要です。
特に、
といった表現には注意しましょう。
そして、副業整体を行うのであれば、法律上の問題だけでなく、勤務先のルール、税金、事故、集客なども確認しておく必要があります。
副業整体は、何も考えずに始めるものではありません。
しかし、法律・職場・税金・事故・集客について一つずつ確認していけば、リスクを具体的に管理できます。
副業整体をこれから始める方は、次に「副業整体を始めるための全体像」を確認してみてください。
▶関連記事:このブログの歩き方|理学療法士が副業整体を始めるための完全ガイド
から、必要な記事を順番に読むことができます。
この記事は、KINMAQ訴訟の判決内容をもとに、理学療法士が副業整体を始める際の注意点を分かりやすく整理したものです。
個別の施術内容や広告表現が法律に違反するかどうかは、具体的な事情によって判断が変わる場合があります。



「理学療法士として働きながら、副業で整体を始めたい」