「この人、最近患者さんを診ていないな」
回復期リハビリテーション病棟で働いていると、管理職になった先輩がいつの間にか臨床の現場から遠ざかっていく光景を、何度も目にしてきました。
最初は会議が増え、次に数字の管理が仕事の中心になっていました。
そしていつしか、患者様のそばにいる時間よりもパソコンの前にいる時間の方が長くなっていく…
これは個人の意志の問題ではありません。
診療報酬制度の構造が、管理職を必然的に臨床から引き離していくのです。
最近では、令和8年の診療報酬改定によって、回復期リハビリ病棟の経営陣へのプレッシャーはさらに強まっています。
そのしわ寄せが、管理職セラピストへと直撃している現実があります。
この記事では、現場の理学療法士として実際に目の当たりにしてきた「管理職が臨床から離れていく本当の理由」を、制度の構造から正直にお伝えします。
回復期リハビリ病棟の診療報酬改定|経営陣が追われる数字の正体
回復期リハビリテーション病棟には、入院料1〜5という段階的な区分があります。
当然、より上位の入院料を算定できれば、病院の収益は大きく変わってきます。
その中でも特に重要なのが「リハビリテーション実績指数」です。
簡単にいえば、患者様がどれだけ機能回復したかを数値化した指標で、これが一定水準を下回ると上位の入院料を算定できなくなります。
令和8年度の診療報酬改定では、この実績指数の基準がさらに引き上げられました。
入院料1の算定には42以上、そして新設された「強化体制加算(80点/日)」を算定するには48以上が必要とされています。
さらに重症患者の新規受入割合・FIM測定の義務化・栄養管理にGLIM基準の導入など、要件は改定のたびに増え、複雑化しています。
これらの数字をクリアし続けることが、病院経営において死活問題となっているのです。
経営陣が「実績指数を上げろ」「重症患者をもっと受け入れろ」とプレッシャーをかけてくるのは、その切迫した経営事情があるからです。
現場の私たちにとってはリハビリの「質」の話であっても、経営サイドにとっては「存続」のための数字なのです。
▶参考記事:回復期リハ病棟、重症患者の定義・リハ実績指数の計算・リハ強化体制加算等の詳細示す―疑義解釈2【2026年度診療報酬改定】(2)
「数字を上げろ」というプレッシャーが管理職に集中する理由
経営陣が抱える数字へのプレッシャーは、そのまま管理職セラピストへと伝達されます。
なぜなら、管理職は「経営と現場の橋渡し役」だからです。
経営陣の要求を現場スタッフに落とし込み、実績指数や重症患者割合といった指標を達成させる責任を担うのが管理職の役割です。
具体的にどんな業務が増えるかというと、まず「データ管理」です。
FIMの測定結果を集計し、実績指数を算出し、目標値との乖離を分析する。
これだけでも相当な時間がかかります。
次に「会議対応」です。
経営会議・リハビリ科会議・多職種カンファレンス・委員会活動と、管理職になると会議の数は劇的に増えます。
そして「スタッフ教育」です。
実績指数を上げるためには、スタッフ一人ひとりの臨床力を底上げしなければなりません。
OJTや勉強会の企画・運営も管理職の仕事となります。
これらの業務はすべて、患者様の前に立つ時間を削ることで成り立っています。
管理職が臨床から離れていくのは必然であり、構造的な問題なのです。
管理職セラピストが臨床から離れていく3つのプロセス
実際に現場で見てきた経験から、管理職セラピストが臨床から離れていくプロセスには、ほぼ共通したパターンがあります。
【第1段階】会議と書類が増える
管理職になった直後は、まだ患者様も担当しています。
しかし徐々に会議の数が増え、「今日は午後から会議なので患者さんを代わってほしい」という場面が増えていきます。
この時点では、本人も「臨床は続けたい」という意志を持っています。
【第2段階】担当患者数が減る
会議や書類業務が常態化すると、担当患者数を減らさざるを得なくなります。
「自分の分は他のスタッフに振る」ことが当たり前になり、気づけば週に数人しか患者様を担当していない状態になります。
【第3段階】臨床から実質的に外れる
最終的には「管理業務専任」に近い状態になります。
患者様を担当することはほぼなくなり、データを見て現場スタッフに指示を出す立場になっていきます。
この3段階は、本人が望んでそうなるのではありません。
組織の構造と診療報酬の要件が、否応なくそこへ向かわせるのです。
臨床から離れることで失われるもの|管理職セラピストの葛藤
管理職になって臨床から離れていったセラピストは、何を失っているのでしょうか?
まず「技術の感覚」です。
理学療法士の技術は、毎日患者様に触れることで維持されるものです。
週に数人しか担当しなくなると、触診の感覚・動作分析の精度・徒手療法のタイミングが鈍ってきます。
「あれ、以前はもっとうまくできたのに」という感覚は、臨床から離れた多くのセラピストが経験することです。
次に「患者様との関係性」です。
毎日顔を合わせ、一緒に目標を追いかけることで生まれる信頼関係は、管理職業務の中では得られません。
「ありがとう」と言ってもらえる場面が減り、やりがいの根源が失われていきます。
そして「自分が理学療法士である実感」です。
これが最も大きいかもしれません。
肩書きは「主任」「科長」になっても、「自分はセラピストとして本当に機能しているのか」という問いが、管理職になった多くの先輩から聞こえてきます。
数字を追いながら、臨床家だった自分との間で葛藤し続ける。
それが管理職セラピストの実像です。
私自身が管理職に向いていないと気づいた理由
正直に言います。
私は管理職に向いていないと思っています。
でもそれは、責任を取りたくないとか、楽をしたいという話ではありません。
そもそも、なぜ私は理学療法士になったのか。
それは「患者様の体に直接関わり、その人の生活を取り戻す手助けがしたい」という思いからでした。
勉強会に通い、先輩の技術を盗み、休日も自分の手技を磨き続けてきたのは、ただその一点のためでした。
14年間積み上げてきた技術は、すべて「患者様の前に立つため」のものです。
触れたときの組織の変化を感じ取る触診力。
動作を観て問題点を瞬時に見抜く分析力。
そして、その人に最適な手技を選んで結果を出す力。
これらは、患者様と向き合い続けることでしか磨けないものです。
管理職になれば、そのすべてから遠ざかっていきます。
会議室でFIMの数字を並べながら、「自分はちゃんと理学療法士をできているのか」と問い続ける日々になる…、私が求めているのはそうじゃない。
患者様の前に立ち、自分の技術で誰かの生活を変える瞬間に、理学療法士としての喜びがあります。
何のために14年間技術を磨いてきたのか。
その答えは、臨床の現場にしかありません。
だから私は、管理職という道を選びませんでした。
管理職にならなくても、臨床家として報われる道はあるか
「管理職にはなりたくない。でも、このままの収入でいいとも思っていない」
おそらく、この記事を読んでいるあなたも、同じ葛藤を抱えているのではないでしょうか。
実は、管理職か現状維持かという二択以外に、第三の道があります。
それが、本業の病院勤務を続けながら副業として整体業を始めるという選択肢です。
自費診療の世界では、技術力がそのまま収入に直結します。
患者様に選ばれ、リピートされ、口コミで広がる。
管理職業務ではなく、臨床の腕そのものが評価される場所です。
私自身、理学療法士11年目のときに副業整体を始め、現在は月に一定の収入を副業で得ながら、本業の臨床も続けています。
管理職にはならず、患者様の前に立ち続けながら、収入も上げることができています。
もちろん、最初から簡単だったわけではありません。
何から始めればいいのか、リスクをどう管理するか、家族への説明をどうするか。
悩んだことは山ほどあります。
その具体的な方法については、次の記事で詳しくお伝えします。
まとめ
管理職が臨床から離れていくのは、その人の意欲や能力の問題ではありません。
診療報酬改定による経営プレッシャーが管理職に集中し、数字・会議・書類対応が業務の大半を占めるようになります。
それは制度が生み出した、避けがたい構造です。
私自身、14年間臨床家として働いてきた中で「管理職になれば収入は上がるかもしれないが、自分が本当にやりたいことから遠ざかるのではないか」という不安を、ずっと抱えてきました。
なぜ理学療法士になったのか。
何のために技術を磨いてきたのか。
その答えは「患者様の前に立ち続けること」です。
その思いがある限り、管理職という道は自分には合わないと感じています。
しかし同時に、収入が上がらないことへの焦りもありました。
管理職か、現状維持か。
その二択しかないと思っていた時期が、私にもありました。
でも今は違います。
臨床家としての技術を活かしながら、収入を増やす第三の選択肢が存在することを、実体験として知っています。
その具体的な方法については、次の記事でお伝えします。


